スナップエンドウの栽培方法
スナップエンドウの栽培方法を、鹿児島・熊本・福島・和歌山・愛知・千葉・岡山・高知・山形・岐阜・広島の県の試験場や普及機関、JA、農畜産業振興機構(ALIC)、種苗メーカーの資料で比べました。いつ播くか → どの品種を選ぶか → どんな畑に → どう播いて植えるか → 冬をどう越すか → どう支えて仕立てるか → 肥料と水 → 花と莢の失敗例 → 病害 → 害虫 → いつ穫るかの順に、資料が一致する点と違う点、その理由を整理しています。
スナップエンドウは、開花後25日程度まで子実を大きくして莢ごと食べるエンドウで、1970年代にアメリカから導入されたとされています(ALIC)。令和4年の出荷量は鹿児島県が4,330tで全国の1万3,100tの3分の1を占め、次いで愛知・熊本・福島・和歌山の順です(ALIC、さやえんどう全体の統計)。各資料に共通するのは、エンドウは冷涼な気候を好み、暑さに弱く、幼苗は寒さに耐えるが花と莢は霜に弱いという性質です。この性質から、暖地では秋から初冬に播いて冬から春に長く穫る作型が組まれ、寒地や高冷地では春に播いて初夏に穫る作型が中心になります。「いつ播くか」の判断が、品種・施肥・仕立て・病害虫までの多くの違いにつながっています。
数値はいずれも、各資料が対象とした地域・作型・品種での目安です。スナップエンドウ固有の資料が少ないテーマ(土づくり・病害虫など)は、さやえんどう(絹さや)や実えんどうなどエンドウ類の資料で補い、吹き出しの条件欄に「エンドウ資料」「きぬさや」と書いています。家庭菜園向けの資料(高知県「こうち農業ネット」、トーホク)と、10㎡単位の小規模向け記載の資料(岡山県備南広域農業普及指導センター)も条件欄に明記しています。農薬については、商品名や成分名は挙げず、使用の際は登録内容(作物・病害虫・使用回数・収穫前日数)をラベル等で必ず確認してください。
8. 開花・着莢と生理障害:落花、ごま症、白ぶくれ、霜莢
各機関の見解のまとめ
- 一致している点:花が落ちる原因として、資料が挙げるのは高温(和歌山県:最高気温30℃以上・最低気温20℃以上の時期の花は落ち、着莢には30℃以下・20℃以下が望ましい)、元肥過多(高知県)、開花期以降の乾燥(トーホク)、低温(岡山県:5℃以下では開花数が少ない)です。莢の褐色の小斑点「ごま症」は、うどんこ病菌と褐紋病菌の莢への感染が主因で(植物防疫・鹿児島県)、莢の白いふくれ「白ぶくれ症」はアザミウマ類の産卵痕です(和歌山県・鹿児島県・熊本県)。
- 違う点:ごま症の対策は、うどんこ病の防除で莢への感染機会を減らす(植物防疫)、週2回収穫で開花から収穫までを短くし、pF2.1でかん水して褐紋病の進展を遅らせる(鹿児島県)と、薬剤と耕種の両面が示されています。白ぶくれ症は、天敵温存植物とソルゴー障壁の植生管理(鹿児島県)、光反射マルチや防風ネットの挟み込み被覆(和歌山県)が示されています。
和歌山県農業試験場 和歌山・紀北|実エンドウ「きしゅううすい」「紀の輝」(エンドウ資料)|露地夏まき年内どり
- 高温期には落花するため、収穫時期は10月中旬からとなる。「紀の輝」では高温期の花は落花するため着莢節位が高くなる
- 9月25日頃までに開花した花の多くが落花するため、着莢には最高気温30℃以下、最低気温20℃以下となることが望ましい
- 土壌の昇温防止と乾燥防止のため白黒マルチ被覆とし、降雨が少ない場合はかん水チューブで適宜かん水する
鹿児島県(植物防疫 2016年) 鹿児島|露地|ニムラサラダスナップ
- 「ごま症」は商品である莢に発生する大小の褐色斑点で、病害名ではなく生産者・流通関係者の呼称。栽培試験の例では収穫量の45%がA品、36%はごま症やスリップス類の吸汁害で汚損したB品、8%はごま症による規格外品で、A品(約1,000円/kg)とB品(約300円/kg)の価格差は大きい
- ごま症の莢の表面にはうどんこ病菌の分生子が高頻度で観察され、接種試験で同様の褐色小斑点が再現された。うどんこ病を防除することでごま症の発生を低減できる可能性が示された
- 露地(9月25日播種)では、12月10日(収穫始め)に下位葉でうどんこ病が初発し、下位葉から上位葉へ進展した。茎葉の発病範囲が着莢・収穫位置より低い段階ではごま症は出ず、3月に発病が収穫位置に達すると無処理区のA品率が大きく低下した
- 褐紋病菌の接種でも莢に斑点が出て、ごま症の一要因と示唆された。多発年にはごま症の発生に大きく関与する可能性が高い
出典:植物防疫 第70巻第11号「うどんこ病菌の感染によるスナップエンドウ莢の『ごま症』発生実態と防除」(樋口康一・中島純、2016年)
鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場 鹿児島|露地・点滴かん水|令和3・4年度の試験
- ごま症による商品果率低下が問題で、主要因はうどんこ病と褐紋病と整理されている。うどんこ病対策は確立済だが、褐紋病によるごま症は依然として産地で発生している
- 収穫間隔を週1回から週2回に短くすることで、開花から収穫までの期間が短縮しごま症の発生が軽減する
- かん水開始点pF2.1(pF2.2を超えない)でかん水することで、褐紋病の進展と株の枯れ上がりが遅れ、ごま症の発生が減少し商品収量が増加する
和歌山県農業試験場 和歌山・日高|キヌサヤエンドウ(エンドウ資料)|印南町、2015年
- 日高地域のキヌサヤエンドウで莢のガク枯れ(出荷不可・階級落ち)や白ぶくれ症(品質低下)が多発し、原因は主にハナアザミウマによる加害と判明した。被害莢率は10月平均でガク枯れ14%(最大52%)、白ぶくれ症25%(最大92%)
- 本種は登録薬剤が少なく薬剤防除のみでは効果が得られないことが多いため、光反射マルチの利用(忌避作用)と、防風ネット(4mm目合い)の挟み込み被覆栽培の2つの物理的防除法を現地で試験した
鹿児島県農業開発総合センター生産環境部 鹿児島|露地
- スナップエンドウはアザミウマ類による白ぶくれ症が問題だが、化学農薬だけでは被害を十分に抑制できない。一方、スナップエンドウは天敵が定着しにくい植物で、作物上での天敵利用は困難
- 土着天敵(ヒメハナカメムシ類、タバコカスミカメ)を保全する天敵温存植物(ソバ、ホーリーバジル、ゴマ、フウチョウソウ)の植栽と、障壁としてのソルゴーを併用した植生管理で、アザミウマ類の侵入を抑制し、アザミウマ類と白ぶくれ症を半減した
出典:鹿児島県農業開発総合センター 研究成果「アザミウマ類によるスナップエンドウの白ぶくれ症被害を低減する植生管理技術」
熊本県農業研究センター天草研究所 熊本・天草|早期水稲の後作|露地・年内どり
- 露地で秋から収穫するため、特にヤガ類と、莢に白ぶくれ症状を示すヒラズハナアザミウマの防除が重要
- 霜莢の発生は−2℃付近と予想される
出典:熊本県農林水産部 農業の新しい技術 No.568「早期水稲後における露地スナップエンドウの栽培技術」(平成18年1月)
比較:花と莢の障害、原因と対策
| 症状 | 原因(資料) | 対策(資料) |
|---|---|---|
| 落花 | 高温(最高30℃以上・最低20℃以上:和歌山県)、元肥過多(高知県)、開花期以降の乾燥(トーホク) | 播種期の調整(和歌山県・JA紀州)、白黒マルチで昇温防止(和歌山県・熊本県)、元肥控えめ(高知県)、かん水(トーホク) |
| 開花数が少ない | 5℃以下(岡山県) | 作型・防寒(第5章) |
| ごま症(莢の褐色小斑点) | うどんこ病菌・褐紋病菌の莢への感染(植物防疫・鹿児島県) | うどんこ病の防除で莢への感染機会を減らす(植物防疫)、週2回収穫、pF2.1かん水(鹿児島県) |
| 白ぶくれ症(莢の白いふくれ) | アザミウマ類の産卵痕(和歌山県・鹿児島県・熊本県) | 天敵温存植物+ソルゴー障壁(鹿児島県)、光反射マルチ・防風ネット挟み込み(和歌山県)、タイベックマルチの試験(広島県、第10章) |
| ガク枯れ | ハナアザミウマの加害(和歌山県) | 同上 |
| 霜莢(莢の霜害) | −2℃付近(熊本県)、−1℃前後でも発生(鹿児島県・種子島) | 作型を降霜前に終える(熊本県)、散水氷結法(鹿児島県) |
なぜ違うのか
- ごま症は病害、白ぶくれは虫害:どちらも莢の見た目を落として等級を下げますが、原因が違います。植物防疫の報告では、うどんこ病は茎葉の病害とされて莢への影響が軽視されてきたものの、スナップエンドウでは莢への感染が商品価値を下げると明らかになりました。鹿児島県の令和5年度の成果は、うどんこ病対策が確立したあとに残った褐紋病によるごま症への耕種的対策です。
- なぜ週2回収穫で減るのか:鹿児島県は、収穫間隔を短くすると開花から収穫までの期間が短くなり、莢が菌にさらされる時間が減るためとしています。収穫適期(第11章)とも関わる管理です。
- 曲がり莢・すじ:曲がり莢やすじの入った莢の発生原因について、今回確認した資料に記述はなく、この記事では触れていません。