いちごの定植で気をつけること

ビニールハウスの高設ベッドにいちご苗を定植している様子

いちごの定植(苗を本ぽ=栽培するほ場やベンチに植え付ける作業)で気をつけたい点を、農研機構・県・JAの資料で比べました。いつ植えるか → どの苗を → どんな本ぽに → どう植えて → 植えた後どう守るかの順に、各機関の見解が一致する点と違う点を整理しています。数値はいずれも、各資料が対象とした条件での目安です。

3. どんな苗を植えるか:苗の太さと病害虫の持ち込み防止

各機関の見解のまとめ

  • 一致している点:病気や害虫のついていない、しっかり育った苗を選び、本ぽに病害虫を持ち込まないことは、すべての機関に共通しています。定植前に苗を選別し、病気の株や生育の悪い株を取り除くこと、定植前に防除を済ませることが挙げられています。
  • 違う点:苗の太さの目安(クラウン径)は、品種・育苗方法・示している時点によって5mmから11mmまで差があります。防除の具体的な方法(薬剤・処理のタイミング)は、資料の作成時期によって異なります。

苗の質(クラウン径)

農研機構ほか 北海道|すずあかね・とちおとめ|高設

  • 四季成り性「すずあかね」の冷蔵苗:病害虫の感染や寄生がない、根量が十分にある、クラウン径5〜10mm
  • 一季成り性「とちおとめ」:葉数4〜5枚、クラウン径8.0〜10.0mmで花芽分化した苗を、8月下旬までに定植

出典:農研機構ほか『大規模いちご生産技術導入マニュアル』

栃木県 栃木|とちおとめ|ポット育苗

「とちおとめ」のポット育苗では、定植時のクラウン径10〜11mmを目標にする。

出典:栃木県「いちご『とちおとめ』の栽培技術」

栃木県安足農業振興事務所 栃木|とちおとめ ほか|促成

  • 育苗後半の目標は「クラウン径が10㎜以上の苗づくり」
  • 定植前に炭疽病や萎黄病の株がないかを確認し、感染株や生育の悪い株は取り除く

出典:栃木県安足農業振興事務所「いちご育苗後半の栽培管理のポイント」

JA埼玉中央 埼玉|促成

  • 健全な苗を厳選し、本ぽに病害虫を持ち込まない
  • 元気な下葉は除去しなくてもよいが、黄化した葉や病葉は除去する

出典:JA埼玉中央「いちご定植前後の管理と高温対策について」(2024年・東松山農林振興センター)

機関品種苗・作型クラウン径の目安
農研機構ほかすずあかね(四季成り)冷蔵苗・高設5〜10mm
農研機構ほかとちおとめ促成・高設(8月下旬までに定植)8.0〜10.0mm(葉数4〜5枚)
栃木県とちおとめポット育苗(定植時)10〜11mm
安足とちおとめ ほか育苗後半の目標10mm以上

なぜ違うのか

  • 品種・苗の種類:最も細い目安(5〜10mm)は、四季成り性「すずあかね」の冷蔵苗についての値です。
  • 育苗方法と時点:栃木県の10〜11mmはポット育苗の定植時の目標、安足の10mm以上は育苗後半の目標です。
  • 一季成り性「とちおとめ」に限ると、目安は8〜11mm前後の範囲にあり、資料間で大きな食い違いはありません。

健全苗の断面

病害虫を本ぽに持ち込まない

JA埼玉中央 埼玉|とちおとめ|促成

「うどんこ病、炭疽病及びハダニ類は、苗からの持ち込みがほとんどです」。定植前に確実に防除する。

  • 炭疽病:雨よけ栽培を基本とし、水はねで発生を助長する頭上かん水を避けて株元にかん水する。発病株や感染が疑われる株は早急に取り除いて密閉し、ほ場外で処理する
  • 萎黄病:潜在感染した親株を使うと、ランナーを経由して子苗に伝染する。発病株や感染が疑われる株の早期除去、薬剤または太陽熱利用による土壌消毒を行い、発病地で使った農機具や長靴に付いた土を他の畑やハウスに持ち込まない

出典:JA埼玉中央「いちご(とちおとめ)の管理ポイント 育苗後半~定植まで」(2013年)

佐賀県農業技術防除センター 佐賀|育苗〜本ぽ定植

  • 定植前の苗選別を徹底し、罹病の可能性がある苗(葉・葉柄に病斑がみられる株、発病株の周辺株)は定植しない
  • 本ぽ定植の直前には必ず薬剤防除を行い、天井ビニル被覆時まで炭疽病の薬剤防除を続ける
  • 炭疽病の潜伏期間(感染から発病まで)は、葉・葉柄では約1週間。クラウンに感染した場合は約1か月後に萎れる症状が出る
  • 梅雨期〜9月に気温が高く、降雨日が続く場合に伝染が拡大しやすい

出典:佐賀県農業技術防除センター 病害虫対策資料第7号「イチゴ炭疽病の防除対策について」(令和4年8月)

栃木県安足農業振興事務所 栃木|とちおとめ ほか|促成

  • 定植前にうどんこ病やハダニ類の防除を徹底する。ハダニ類には気門封鎖剤なども併用して、定植前に徹底防除する
  • 資料(平成28年7月20日現在の登録情報)では、モベントフロアブルの使用時期を育苗期後半のかん注としている。チリカブリダニやミヤコカブリダニを使う栽培では、処理後45日以上あけて放飼する(メーカー資料の注意)

出典:栃木県安足農業振興事務所「いちご育苗後半の栽培管理のポイント」

JA埼玉中央 埼玉|促成

ハダニ類はハウス内に「持ち込まない」ことが重要。

  • モベントフロアブルの灌注処理は、苗が薬剤を吸収する時間を確保するため、定植3〜5日前に行うのがおすすめ
  • 高濃度(50〜60%以上)の炭酸ガスで24時間処理する方法は、卵・幼虫・成虫のすべてのステージのハダニ類に効果がある
  • ハウス内外の除草も行う

出典:JA埼玉中央「いちご定植前後の管理と高温対策について」(2024年・東松山農林振興センター)

農研機構ほか 北海道|すずあかね・とちおとめ|高設

  • ハダニ類の防除方法として、温室周囲の雑草除去や苗の徹底防除を挙げている
  • 促成栽培の育苗期間中は化学合成農薬を散布し、特にハダニ類の防除に努める

出典:農研機構ほか『大規模いちご生産技術導入マニュアル』

佐賀県農業試験研究センター 佐賀|いちごさん|育苗期

「いちごさん」では、育苗期間の施肥量が多くても少なくても炭疽病の発生を助長したため、適量施肥を心がける。

出典:佐賀県農業試験研究センターニュース第21号

栃木県芳賀農業振興事務所 栃木|育苗期

高温によるいちご栽培への影響の一つとして、炭疽病の発生リスクの増加を挙げている(炭疽病の生育適温は28℃)。

出典:栃木県芳賀農業振興事務所「いちご育苗期の高温対策について」(令和6年1月)

違いをどう読むか

  • 病害虫の持ち込みを防ぐという方針は全機関で一致しており、違うのは手段とタイミングです。
  • モベントフロアブルの使用時期は、安足(平成28年の登録情報)では育苗期後半のかん注、JA埼玉中央(2024年)では定植3〜5日前の灌注をおすすめとしており、資料の時点によって書き方が異なります。農薬を使う際は、必ず最新の登録内容と製品ラベルを確認し、使用基準を守ってください。
  • 佐賀県は発病株の周辺株まで定植しないとしています。同資料は、感染部位によって潜伏期間が異なる(葉・葉柄で約1週間、クラウンで約1か月)ことから、まだ発病していない株があると考えられるとしています。