いちごの定植で気をつけること

ビニールハウスの高設ベッドにいちご苗を定植している様子

いちごの定植(苗を本ぽ=栽培するほ場やベンチに植え付ける作業)で気をつけたい点を、農研機構・県・JAの資料で比べました。いつ植えるか → どの苗を → どんな本ぽに → どう植えて → 植えた後どう守るかの順に、各機関の見解が一致する点と違う点を整理しています。数値はいずれも、各資料が対象とした条件での目安です。

5. どう植えるか:株間・深さ・向き

各機関の見解のまとめ

  • 一致している点:株間は24〜25cm前後を示す資料が多く、株間を狭めると果実の肥大や1株当たりの果重が劣りやすいという点は、栃木県と福岡県の資料に共通しています。植え付けの深さは、浅すぎても深すぎても生育に悪影響があるとされ、ランナーの跡を畝(ベッド)の内側に向けて、果房を外側(通路側)に出すことも複数の資料で一致しています。
  • 違う点:株間は奈良県「奈乃華」の18cmから農研機構ほか「すずあかね」の25〜30cmまで幅があります。株間を狭めたときの面積当たりの収量も、増える傾向がある(栃木県「とちおとめ」)、狭いほど換算収量が多かった(栃木県「なつおとめ」の試験)、一定の関連がみられない(福岡県「とよのか」2芽苗)と、資料によって結果が分かれます。深さの表現も、「やや深植え」から「深植えにならないように」まで、資料によって力点が異なります。

株間

栃木県 栃木|とちおとめ|促成・高畝

  • 「とちおとめ」は、収量、果実品質、管理労力の面から株間24cm程度に植え付ける
  • 株間を狭めると面積当たりの収量は多くなる傾向がある一方、果実肥大が劣り、上位等級の発生も少なくなる
  • 定植床は畝幅110〜120cmの高畝

出典:栃木県「いちご『とちおとめ』の栽培技術」

福岡県農業総合試験場 福岡|とよのか|促成・2芽苗

  • 「とよのか」のクラウン利用2芽苗(畝幅1.1mの外成り栽培)では、株間25cm程度が適する
  • 株間20〜30cmの範囲では、株間が広いほど1株当たりの果重・平均1果重が重い。面積当たりの総収量とは一定の関連がみられないが、年内収量は株間25cmで多かった

出典:福岡県農業総合試験場「イチゴ『とよのか』のクラウン利用2芽苗の定植方法及び窒素施用量」(平成9年度)

JA埼玉中央 埼玉|とちおとめ|促成

「とちおとめ」は株間25cm以上、定植本数は7,500本/10a。

出典:JA埼玉中央「いちご(とちおとめ)の管理ポイント 育苗後半~定植まで」(2013年)

栃木県 栃木|なつおとめ(四季成り)|夏秋どり・高畝

畝幅110〜120cm、株間24〜27cm(6,000本/10a)程度を目安に、2条の高畝に定植する。株間を比べた試験(2011年・栃木市、ヒートポンプでハウス内平均気温を23℃程度に管理)では、10a当たりの換算収量は株間30cmで3.6t、27cmで4.0t、24cmで4.4t。1株当たりの収量は695g、686g、675g、1果重は11.9g、11.9g、11.7gだった。

出典:栃木県「四季成り性いちご品種『なつおとめ』の夏秋どり栽培技術」

農研機構ほか 北海道|すずあかね(四季成り)|高設

「すずあかね」の高設・2条千鳥植えでは株間25〜30cm。株間25cmの場合は5,400株(間口8m・ベンチ長45mの6ベンチの場合)。

出典:農研機構ほか『大規模いちご生産技術導入マニュアル』

奈良県 奈良|奈乃華|土耕ハウス

「奈乃華」は草姿が県内で普及している他の品種より小型で、慣行の栽培方法では株間に隙間ができやすい。慣行の株間23cmと比べた試験では、年内収量の確保を重視する場合は株間18cmでの定植が、厳冬期の収量低下を避けたい場合は2芽管理が、それぞれ有効だった。糖度と酸度は慣行と同等だった。

出典:奈良県「イチゴ品種『奈乃華』の栽培に適した株間と芽数」(奈良農研ニュース vol.166)

奈良県 奈良|家庭菜園|露地

家庭菜園向けの露地栽培では、10月中旬頃に株間25cmの2条植えで植え付ける。

出典:奈良県「イチゴづくりのポイント」

機関品種作型・栽培方式株間本数・条件
奈良県奈乃華土耕ハウス18cm(年内収量重視)慣行は23cm
栃木県とちおとめ促成・畝幅110〜120cmの高畝24cm程度—
栃木県なつおとめ(四季成り)夏秋どり・畝幅110〜120cmの2条高畝24〜27cm6,000本/10a
福岡県とよのか促成・2芽苗・畝幅1.1mの外成り25cm程度—
JA埼玉中央とちおとめ促成25cm以上7,500本/10a
奈良県(家庭菜園)露地・2条植え25cm—
農研機構ほかすずあかね(四季成り)高設・2条千鳥植え25〜30cm25cmで5,400株(6ベンチ)

なぜ違うのか

  • 品種の草姿:奈良県は「奈乃華」の草姿が小型で隙間ができやすいことを理由に、狭い株間を試しています。
  • 何を重視するか:株間を狭めると、果実の肥大や等級(栃木県)、1株当たりの果重(福岡県)では不利になるとされます。栃木県「とちおとめ」は、収量・果実品質・管理労力のバランスから24cm程度としています。奈良県は年内収量を重視する場合に18cmとしています。
  • 品種・苗による結果の差:面積当たりの収量は、「とちおとめ」では株間を狭めると増える傾向、「なつおとめ」の試験では株間が狭いほど多い結果が示され、「とよのか」の2芽苗では一定の関連がみられていません。品種や苗の種類が違う試験の結果です。
  • 栽培方式・苗:高設の千鳥植え(農研機構ほか)や、クラウン利用2芽苗(福岡県)など、植え方や苗の種類が異なる資料では、それぞれの条件での値が示されています。

植え付けの深さ

栃木県 栃木|とちおとめ|促成

根が土とよく密着するように根を広げて植え付け、クラウン部からの1次根の発生をよくするためやや深植えにする。

出典:栃木県「いちご『とちおとめ』の栽培技術」

栃木県安足農業振興事務所 栃木|とちおとめ ほか|促成

深植えは芽枯れの発生を助長するため注意する。

出典:栃木県安足農業振興事務所「いちご育苗後半の栽培管理のポイント」

JA埼玉中央 埼玉|促成

新しい根はクラウン部から出るため、クラウン部付近が地表面に一致する深さで植え付け、未展開葉(芯葉)が埋もれないようにする。浅植えや深植えは、葉の展開や収穫開始が遅れる原因になる。

出典:JA埼玉中央「いちご定植前後の管理と高温対策について」(2024年・東松山農林振興センター)

農研機構ほか 北海道|すずあかね(四季成り)|高設

「すずあかね」の高設での図解:

  • 深すぎる:芽枯れ病のおそれ、出葉の遅れ・生育遅延
  • 浅すぎる:1次根の発生遅れ、腋芽の多発
  • 適切な深さ:生育良好

出典:農研機構ほか『大規模いちご生産技術導入マニュアル』

福岡県農業総合試験場 福岡|とよのか|促成・2芽苗

クラウン利用2芽苗は、根鉢部分だけでなく、クラウンの基部が土壌に埋まる程度の深さに植え付けるとよい。

出典:福岡県農業総合試験場「イチゴ『とよのか』のクラウン利用2芽苗の定植方法及び窒素施用量」(平成9年度)

奈良県 奈良|家庭菜園|露地

家庭菜園向けの露地栽培では、深植えにならないように注意しながら植え付ける。

出典:奈良県「イチゴづくりのポイント」

機関品種・栽培方式深さの表現理由として挙げていること
栃木県とちおとめ・促成やや深植えクラウン部からの1次根の発生をよくする
福岡県とよのか・2芽苗クラウンの基部が土壌に埋まる程度(試験結果)
JA埼玉中央促成クラウン部付近を地表面に一致、芯葉を埋めない新しい根はクラウン部から出る。浅植え・深植えは葉の展開や収穫開始の遅れの原因
農研機構ほかすずあかね・高設深すぎず浅すぎず(図解)深すぎ:芽枯れ病のおそれ・出葉の遅れ/浅すぎ:1次根の発生遅れ・腋芽の多発
安足とちおとめ ほか・促成深植えに注意芽枯れの発生を助長する
奈良県家庭菜園・露地深植えにならないように—

なぜ違うのか

  • 浅植えには1次根の発生が遅れる、深植えには芽枯れや出葉の遅れが起こるというリスクがあり(農研機構ほかの図解はその両方を示しています)、資料によってどちらを強調しているかが違います。
  • 同じ栃木県の「とちおとめ」でも、栃木県は根の発生のために「やや深植え」、安足は芽枯れを助長するとして深植えに注意するよう示しています。両者は矛盾するものではなく、根が出る程度にやや深く、ただし深くしすぎないという範囲を示していると読むことができます。
  • 福岡県の「クラウンの基部が土壌に埋まる程度」は、クラウンから養成した2芽苗という特殊な苗での結果です。

植え深さ

株の向きと根の張らせ方

株の向きについては、果房を畝の外側(通路側)に出すために、ランナーの跡を畝の内側に向けるという点で各資料が一致しています。根の扱いでは、根と土(培地)を密着させること、巻いた根をそのまま植えないことが挙げられています。

農研機構ほか 北海道|すずあかね・とちおとめ|高設

  • 株の向き:花房を通路側に向けるため、ランナー痕をベッド中央部に向けて定植する(すずあかね)
  • 根と培地の密着:株元の苗押さえを十分に行って根と培地を密着させ、発根を促す(すずあかね)
  • 根の扱い:根が巻いたまま定植すると、培地内に空洞ができて根が腐敗する。根量が多い苗は根を15cm程度に切ったり、培地を鎮圧して充填したりする(すずあかね)。根鉢ができている場合は、根を軽くもみほぐしてから定植する(とちおとめ)

出典:農研機構ほか『大規模いちご生産技術導入マニュアル』

奈良県 奈良|家庭菜園|露地

果実が畝の外側に着果するよう、ランナーの切り残りを畝の中央部に向けて植え付ける。

出典:奈良県「イチゴづくりのポイント」

JA埼玉中央 埼玉|促成

根は花房が出る方向に多く伸びるため、外成りの2条植えでは苗を畝の中心に寄せて植え、根を張らせる場所を確保する。

出典:JA埼玉中央「いちご定植前後の管理と高温対策について」(2024年・東松山農林振興センター)

福岡県農業総合試験場 福岡|とよのか|促成・2芽苗

2芽苗は、2つの芽が畝と平行に並ぶように植え付ける。果房の伸びる方向をそろえるため、果房を伸ばしたい方向に株を傾けて植え付ける。

出典:福岡県農業総合試験場「イチゴ『とよのか』のクラウン利用2芽苗の定植方法及び窒素施用量」(平成9年度)

栃木県 栃木|とちおとめ|促成

根土がある場合は、そのまま定植すると植え傷みが少なく、初期収量が増加する。

出典:栃木県「いちご『とちおとめ』の栽培技術」