いちごの定植で気をつけること
いちごの定植(苗を本ぽ=栽培するほ場やベンチに植え付ける作業)で気をつけたい点を、農研機構・県・JAの資料で比べました。いつ植えるか → どの苗を → どんな本ぽに → どう植えて → 植えた後どう守るかの順に、各機関の見解が一致する点と違う点を整理しています。数値はいずれも、各資料が対象とした条件での目安です。
7. 植えた後の暑さ対策:温度と遮光
各機関の見解のまとめ
- 一致している点:定植後の高温は、根の生育や花芽の分化・発達を妨げるとされ、遮光資材(日よけ)、換気、循環扇、細霧冷房、地温やクラウン部の冷却などを組み合わせてハウス内の温度を下げることが、各機関で共通して勧められています。同時に、遮光を張ったままにしないこと(朝は光に当てる、開閉できるようにする)も、複数の資料で一致しています。
- 違う点:遮光率の目安(20〜60%)や遮光する期間は、作型や目的によって異なります。
近年の高温について、栃木県芳賀農業振興事務所は、2023年6〜9月の宇都宮市の平均気温が1980年代と比べて3.7℃高かったとしています。JA埼玉中央も、近年は定植前後の高温によって花芽分化が遅れ、収穫開始の遅れや収量の低下がみられるとしています。
高温が根や花芽に与える影響
JA埼玉中央 埼玉|促成
- 生育適温は気温20〜25℃、地温18〜22℃。気温が30℃を超えると極端に生育が衰える
- 高温対策が特に重要な時期は、育苗期後半(8月以降。第1花房の花芽分化に影響)と、定植後〜第1花房の出蕾時期頃(第2花房の花芽分化に影響)
- 定植後は換気を十分に行い、循環扇や遮光資材などでハウス内の温度上昇を抑える
栃木県安足農業振興事務所 栃木|とちおとめ ほか|促成
- 根は地温22〜23℃までは生育が促進され(最適地温は16〜22℃、吸水・吸肥が最も旺盛なのは18〜21℃)、25℃以上になると生育が抑えられ、10℃以下では吸水・吸肥が止まる
- 高温時は気温と同様に地温も上がるため、定植数日前から寒冷紗などで地温を下げる(夜冷早出し作型では必須)
- 本ぽに定植した後は、ハウス内の温度をできるだけ外気程度まで下げることも重要
農研機構 京都府綾部市|さちのか|夜冷・暗黒低温処理の促成
低温処理で花芽分化を誘起して促成栽培を前進化させる場合について:
- 処理後の株が昼/夜温35/20℃程度の高温に数日遭うと花芽の発達が阻害される。25/20℃ではほぼ阻害されない
- 夜冷短日処理後に10日間高温に遭うと、年内収量が約4割低下
- 暗黒低温処理後に定植した株では、高温に遭う日数が5日以内なら悪影響は小さく、遭う時期は定植直後のほうが定植5〜10日後よりも悪影響が小さい
- 定植後15〜20日間続けて日平均25℃を上回る高温にさらされると、暗黒低温処理の効果が失われやすい
成果情報のページには、発表から年数が経っているアーカイブ情報である旨の注記があります。
埼玉県農業技術研究センター 埼玉|あまりん|育苗期の試験
- 気温のほかに、培地温度もイチゴの花芽分化に影響することがわかった
- 「あまりん」の育苗で、花芽分化の開始に必要な13時間日長以下となる9月1日以降に培地温度を低く(おおむね20℃)すると花芽分化が促進され、培地温度が高温(約30℃以上)で推移すると花芽分化が抑制された
- 温度への感受性が高いとされるクラウンは、培地から近い位置にあり、培地温度の影響を受けやすいとされる
数値が違って見える理由:各資料の温度は、気温(JA埼玉中央・農研機構)、地温(安足)、培地温度(埼玉県)と測っているものが異なり、影響をみている対象も、生育全般・根・花芽と異なります。いずれも高温を避けるという方向では一致しています。なお、埼玉県の試験は育苗期のもので、定植後の本ぽでの試験ではありません。
対策と遮光の使い方
農研機構ほか 北海道|すずあかね・とちおとめ|高設
- 高温対策として、遮光率20〜50%の寒冷紗で被覆してハウス内温度を30℃以下に保ち、細霧冷房、循環扇、培地冷却で気温や培地温を下げる
- 一季成り「とちおとめ」の定植直後は、活着まで遮光資材を張り、日中高温になる場合は細霧冷房を動かす
- 四季成り「すずあかね」の生育適温は18〜25℃で、30℃以上の高温時には寒冷しゃなどで昇温対策をとる
静岡県農林技術研究所 静岡|きらぴ香|超促成・高設
「きらぴ香」の超促成では、定植や頂花房の開花の時期はまだ気温が高いため、本ぽの暑熱対策は必須。遮光資材(40%程度)の展張や、遮熱効果のある塗布剤の使用などを検討する。
静岡県農林技術研究所 静岡|本ぽの高温対策
- 高温対策の基本は「換気、遮光・遮熱、冷却」
- クラウン冷却処理:株元に置いたチューブに20℃以下の冷水を通してクラウン部を局所的に冷やし、高温で遅れやすい花芽分化を促す。夜冷作型の腋花房や、未分化で定植した頂花房の花芽分化促進に使える
- ただし、短日夜冷処理のように花芽分化を大幅に早めることはできない
栃木県農業試験場 栃木|とちおとめ|促成(夜冷)
- 「とちおとめ」の促成では、定植後の9月下旬〜10月下旬に気温が高い年は、栽培後半の収量が下がり作柄が不良になる傾向がある
- 遮熱性の遮光資材を使い、朝方の光合成を確保したうえで日中に遮光すると、ハウス内の昼温の上昇が抑えられ、2次腋花房以降の収量が増えた
- 遮光率の高い資材の終日遮光では、晴天日の最高気温が慣行より7℃程度低くなった一方、収量はやや少なくなった
- 遮光期間中の日照が極端に少ない年は、遮光が生育にマイナスに働いた
福岡県農業総合試験場 福岡|あまおう|早期作型(9月10日頃定植)
- 9月上中旬に定植する早期作型では、10月中下旬の高温で第1次腋花房の花芽分化が遅れ、1〜2月に出荷の中休みが生じることが課題
- 黒色寒冷紗(遮光率58%)による定植後の遮光を、10月中旬からさかのぼって25〜40日間行うと、第1次腋花房の花芽が10月15〜20日に分化した
- 頂花房の花数や年内収量は減ったが、1〜2月の収量が増え、総収量は同程度だった
- 効果は、株のまわりの気温と地温が下がり、葉の表面とクラウン内部の温度が下がったことによる
出典:福岡県農業総合試験場研究報告27「イチゴ‘あまおう’の早期作型における定植後の遮光処理による第1次腋花房の花芽分化促進」(2008年)
栃木県 栃木|なつおとめ(四季成り)|夏秋どり
「なつおとめ」の夏秋どりでは、遮光は遅くとも梅雨明け直後から始め、9月中旬頃までを目安に、遮光率40〜60%の資材を使う。天候によっては遮光で生育が抑えられたり灰色かび病が出やすくなったりするため、遮光資材を開閉できるようにすることが望ましい。
栃木県安足農業振興事務所 栃木|とちおとめ ほか|育苗後半
参考(育苗後半の管理):35℃を超える場合は遮光や葉水で温度を下げる。遮光は正午前後の高温時だけにして、早朝から午前中は日光によく当てる。
| 機関 | 品種・作型 | 遮光する時期 | 遮光の目安 | 結果・注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 農研機構ほか | すずあかね・とちおとめ/高設 | 高温時(とちおとめは定植直後〜活着) | 遮光率20〜50%の寒冷紗でハウス内30℃以下 | 細霧冷房・循環扇・培地冷却を併用 |
| 静岡県 | きらぴ香・超促成 | 定植〜頂花房の開花期 | 遮光資材40%程度、遮熱塗布剤 | 暑熱対策は必須 |
| 栃木県 | なつおとめ・夏秋どり | 梅雨明け直後〜9月中旬頃 | 遮光率40〜60% | 生育抑制・灰色かび病に注意し、開閉できるように |
| 栃木県農業試験場 | とちおとめ・促成 | 定植後(9月上中旬〜10月下旬に試験) | 遮熱性遮光資材(遮光率40・60%)ほか | 朝方は遮光を外し日中だけ遮光すると2次腋花房以降が増収。日照が極端に少ない年はマイナス |
| 福岡県 | あまおう・早期作型 | 10月中旬からさかのぼって25〜40日間 | 黒色寒冷紗(遮光率58%) | 第1次腋花房の分化が早まる。年内収量は減り、1〜2月は増え、総収量は同程度 |
| 安足(参考) | とちおとめ ほか・育苗後半 | 35℃を超える場合 | 遮光・葉水 | 遮光は正午前後だけ、早朝〜午前は日光に当てる |
なぜ違うのか
- 作型と季節:夏秋どりの「なつおとめ」は梅雨明けから9月中旬まで、真夏を通して遮光する前提で40〜60%としています。促成・超促成では、定植後の一定期間(活着まで、頂花房の開花期まで、10月中旬までなど)の遮光として示されています。
- 目的:福岡県は1〜2月の中休みを解消するための花芽分化の促進、栃木県農業試験場は昼温の上昇抑制による後半の収量確保を目的としており、評価している収穫時期が違います。福岡県の結果のように、遮光で年内収量が減る場合もあります。
- 天候:栃木県農業試験場は、日照が極端に少ない年には遮光がマイナスになったとしています。朝の遮光を外す(栃木県農業試験場)、正午前後だけ遮光する(安足)、開閉できるようにする(「なつおとめ」)という各資料の注意は、遮光のしすぎを避けるという点で共通しています。
